大判例

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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)229号 判決

アメリカ合衆国

イリノイ州、オークブルック、トゥエンティセカンドストリート 300

原告

ジ インターナショナル アソシエーション オブ ライオンズ クラブス

代表者

エルサ ベインツェテル

訴訟代理人弁理士

右田登志男

千且和也

東京都墨田区本所一丁目3番7号

被告

ライオン株式会社

代表者代表取締役

小林敦

訴訟代理人弁護士

中村稔

松尾和子

富岡英次

飯田圭

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成5年審判第17166号事件について平成9年4月15日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

被告は、「LIONCLUB」の欧文字を横書きしてなり、旧22類「はき物 かさ っえ これらの部品および附属品」を指定商品とする登録第2491742号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。なお、本件商標は、平成2年5月16に登録出願され、平成4年12月25日に商標権設定の登録がされたものである。

原告は、平成5年8月30日に本件商標の商標登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成5年審判第17166号事件として審理した結果、平成9年4月15日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年6月2日にその謄本を原告に送達した。なお、原告のための出訴期間として90日が付加された。

2  審決の理由の要点

別紙審決書の理由の一部の写しのとおり

3  審決の取消事由

(1)審決は、本件商標と引用標章は、外観上区別しうるとみるのが相当である旨判断している。

両者の外観の差異は、標章の中間部に「S」があるか否かであるが、引用標章の構成において「S」の存在は顕著なものではない。したがって、本件商標の外観と引用標章の外観とは、一見すると相紛れるほど類似しているというべきであるから、審決の上記判断は誤りである。

この点について、被告は、日本語では複数を意味する「S」を表記発音しないので、上記の差異は印象的である旨主張する。

しかしながら、現在の日本人にとって、英語の複数を意味する「S」は卑近なものであるから、被告の上記主張は失当である。

(2)審決は、引用標章は、「S」(ズ)の音が強く聴取されるとともに、比較的長い音構成であるから、「ライオンズ」と「クラブ」の二音節として聴取されるとみるのが相当であるとし、一連に称呼しうる本件商標とは称呼上区別しうるとみるのが相当である旨判断している。

しかしながら、標章の中間部に位置する「S」の音は、明瞭に発音することが難しく、本来弱く聴取されるものであって、「S」の前音が弱音の「N」であっても、特に強く聴取される理由はない。そして、引用標章は、特に冗長ではなく、淀みなく一連に発音しうるものである。

そうすると、本件商標が生ずる称呼と引用標章が生ずる称呼とは、強く認識される語頭の4音が共通し、中間部に位置し弱く聴取される「S」の音の有無において差異があるにすぎないから、相紛れるほど類似するというべきである。したがって、本件商標と引用標章とは称呼上区別しうるとした審決の判断は、誤りである。

この点について、被告は、日本語では複数を意味する「S」を表記発音しないので、引用標章における「S」の音は聴者にとって印象的である旨主張するが、この主張が失当であることは前記のとおりである。

(3)また、審決は、本件商標と引用標章は別異の団体名であることが明らかであるから、観念上も区別しうる旨判断している。

しかしながら、原告は、吠えるライオンの横顔を左右に配した図形をシンボルとして公益事業を行う、世界的に著名な団体であるから、本件商標に接した者が原告を想起するのは極めて自然なことである。

したがって、本件商標と引用標章とは観念上区別しうるとした審決の判断も、誤りである。

第3  被告の主張

原告の主張1、2は認めるが、3(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。

(1)原告は、引用標章の構成において「S」の存在は顕著なものではないから、本件商標の外観と引用標章の外観とは一見すると相紛れるほど類似している旨主張する。

本件商標の外観と引用標章の外観との差異は、標章の中間部に「S」があるか否かであるが、日本語では複数を意味する「S」を表記発音しないので、上記の差異は印象的であって、両者が外観において類似しないことは明らかである。

(2)原告は、標章の中間部に位置する「S」の音は明瞭に発音することが難しく、本来弱く聴取されるものであるから、本件商標が生ずる称呼と引用標章が生ずる称呼とは相紛れるほど類似する旨主張する。

しかしながら、前記のとおり日本語では複数を意味する「S」を表記発音しないので、引用標章を発音したときの「S」の音は、聴者にとって印象的であり、強く聴取されると考えるべきである。

のみならず、原告は世界的に著名な団体であって、引用標章を「ライオンクラブ」と発音する者はいないから、本件商標と引用標章は称呼において類似する旨の原告の上記主張は失当である。

(3)原告は、原告は世界的に著名な団体であるから、本件商標に接した者が原告を想起するのは極めて自然である旨主張する。

しかしながら、被告は、明治24年に創業され(ただし、会社組織となったのは大正7年である。)、国内のみならず外国においても広く営業を行っている、歯磨等の製造販売会社であって、被告商品に付された「ライオン」あるいは「LION」の標章は、高い自他商品の識別力を持っている。

したがって、本件商標を付した本件商標の指定商品に接して、非営利の公益事業を行う団体である原告を想起する者はいないから、原告の上記主張も失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は、被告も認めるところである。

第2  原告は、本件商標は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、引用標章に類似する旨主張する。

検討すると、原告が、非営利の公益事業を行う世界的に著名な団体であることは、当裁判所に顕著な事実である。したがって、原告の名称(引用標章)は、日本国内においても、ほとんどの者によって、十分正確に認識されていると考えるのが相当である。

そして、原告の行う事業が非営利の公益事業であるのに対して、本件商標の指定商品が卑近な日用品であることをも併せ考慮すると、本件商標の外観に接したとき、これを引用標章と誤認する者がいるとは考え難いし、本件商標の発音を聴いた者が、これを引用標章を発音したものと誤認することは稀であると考えられる。

また、引用標章は、世界的に著名な団体の観念を明確に生ずる。これに対して、「LION」及び「CLUB」は、いずれも児童でさえ理解できる平易な英単語であるが、これを結合してなる本件商標は、特別の観念を生ずるとはいえない。

以上のとおり、本件商標と引用標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似するとこるがないから、本件商標は商標法4条1項6号の規定に該当しないとした審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような誤りはない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための期間付加について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年11月17日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

本件商標は前記したとおり「LIONCLUB」の欧文字よりなるところ、請求人は、「本件商標は、その出願時(平成2年5月16日)には既に日本国内において営利を目的とせず、社会奉仕等の公益に関する事業を営む請求人を表示する標章として周知・著名となっていた「LIONSCLUB」又は「ライオンズクラブ」(以下「引用標章」という。)と類似し、商標法第4条第1項第6号の規定に違反して登録されたものである。」旨主張している。

よって按ずるに、引用標章が社会奉仕等の公益に関する事業を営む団体の名称として、世界的に著名である事実はこれを認め得るものである。

そこで、本件商標と引用標章との類否について判断するに、両者の構成は上記のとおりであるから、外観上は区別し得るものとみるのが相当である。

また、両者の構成は上記のとおりであるから、それぞれの構成に相応して、本件商標より「ライオンクラブ」、引用標章より「ライオンズクラブ」のそれぞれの称呼を生ずるものと認められる。

よって、「ライオンクラブ」と「ライオンズクラブ」の称呼を比較するに、両者は第5音目において「ズ」の音の有無にその差を有するものであるが、「ライオンズクラブ」の「ズ」の音は、前音が弱音の「ン」である関係から聴者の耳に強く聴取されるものである。

そして、この「ズ」の音が、強く聴取されることと、8音という比較的長い音構成であることとが相俟って、引用標章は、「ズ」の音にアクセントを有し、かつ、「ズ」の音で一拍おかれることにより「ライオンズ」と「クラブ」の二音節として聴取されるものとみるのが相当である。

これに対し、本件商標は、語頭音にアクセントを有し、全体として一気一連になめらかに称呼し得るものである。

そうとすれば、本件商標と引用標章とは上記に述べた差異により、称呼上区別し得るものとみるのが相当である。

さらに、両者は、それぞれ別異の団体名を表すこと明らかであるから、観念上も区別し得るものである。

してみれば、本件商標と引用標章とは、その外観、称呼および観念のいずれにおいても類似しないものというべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項により、その登録を無効とすることはできない。

なお、請求人は平成9年4月9日付で審理再開申立書を提出しているが、提出された証拠は何れも審査例であり、これに反する審査例(商願平2年第54395号)もあることよりすれば、この証拠をもって審理再開をする理由には至らないものと判断するのが相当である。

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